とうとうNTTグループが本腰を入れてきたか――。電子看板(デジタルサイネージ)の業界関係者の間では、NTT(持株会社)が2010年1月28日に発表した「ひかりサイネージ」の話題で持ちきりだった。
ひかりサイネージとは、デジタルサイネージ端末やコンテンツ、コンテンツの配信システムなどをセットにして販売していく商品ラインアップの総称である。端末や配信システムを標準化して導入や運用のコストを抑えることで、デジタルサイネージを普及させることを狙っている。
NTTの動きに呼応するかのように、他の大手も動き始めた。3日後の2月1日には、ヤフーとCOMELがデジタルサイネージ分野で業務・資本提携し、共同でデジタルサイネージ向けのコンテンツ管理・配信システムの開発や事業を展開すると発表した。COMELは「福岡街メディア」として、福岡市内の交通機関の施設や商業施設に500台のデジタルサイネージ端末を設置・運用していることで知られている。
その翌日の2月2日には、ローソンとアサツーディ・ケイ(ADK)、NTTドコモの3社がデジタルサイネージ向け広告配信会社「クロスオーシャンメディア」を設立すると発表した。まずローソンの300店舗にデジタルサイネージ端末を設置し、広告配信といったメディア事業を手がけるというものである。
プラットフォームが整い、広告代理店の増加が見込める
これまでのデジタルサイネージは、スタンドアロン型で動画や静止画などを繰り返し表示するものがほとんどだった。本当に広告メディアとして有効なのか、疑問視する声もあった。
しかし、大手企業、とりわけNTTグループが取り組みを本格化したことで、デジタルサイネージは確固たる広告メディアに向けた第一歩をようやく踏み出したと言える。
システム面では、デジタルサイネージ端末に広告を一斉配信するプラットフォームが整備されることが大きい。ひかりサイネージでは、NTTグループのサイバーソリューション研究所が開発したデジタルサイネージ・プラットフォームを将来的に利用できるようになる。
このプラットフォームは、ひかりサイネージで使える複数種類のコンテンツ配信システムの上位に位置しており、システム間の連携利用を可能にする。各配信システムの違いをプラットフォームで吸収することで、広告を一斉配信できる仕組みが整う。
各デジタルサイネージ端末の設置場所や表示できる動画フォーマット、ディスプレイの大きさといった属性情報も、プラットフォームで統合管理できる。将来的には、複数のデジタルサイネージ端末の設置場所の特性や時刻、天候などの環境に応じた広告の配信が可能になる。
ビジネスの面でも、NTTが本腰を入れるインパクトは大きいとみられる。デジタルサイネージに取り組む広告代理店が増えることが期待できるからだ。
デジタルサイネージ端末に表示する広告を集める力が増すと、NTTのプラットフォームに接続したいと考えるデジタルサイネージの運営者(デジタルサイネージを自前で設置・運用する企業)も増えるだろう。設置数が増えれば、広告を出せる場所や時間の選択肢が広がる。
結果的に、広告メディアとしてのデジタルサイネージに魅力を感じる企業が増加し、広告出稿が増える。すると、デジタルサイネージ端末を設置したい企業も増える――こんなプラスのサイクルが始まるのではないかと、記者はみている。
入り交じる期待と不安
相次ぐデジタルサイネージ事業化の動きに対し、業界関係者の多くは前向きにとらえている。共通するのは、「デジタルサイネージの認知度が上がる」「大手の参入が普及の裏付けとなり、安心してデジタルサイネージ事業に取り組める」といった声だった。個別には、「NTTグループと組むことで、自社のソリューションが露出できる」「ヤフーから提供されるサイネージ向けコンテンツが増えるきっかけになるのでは」といった意見もあった。
こうした期待の声がある一方で、「将来的にデジタルサイネージの運営者はジレンマに陥るのではないか」と懸念する業界関係者もいる。
というのも、自社が設置したデジタルサイネージ端末が広告の出稿先の選択肢に入るようにするには、まず広告主の目にとまらなければならない。そのためにはNTTグループをはじめとする有力企業が提供するプラットフォームに接続することが必要になる。
そうすることで広告が得られるというメリットがあるが、「プラットフォームを介して広告を配信するとなると、手数料が発生する。その料率によっては、望む利益が得られない場合もあり得る」というのだ。
別の観点から、デジタルサイネージの今後について懸念を指摘する関係者もいる。デジタルサイネージを導入する企業は増えているものの、デジタルサイネージを使って情報を効果的に伝達するノウハウはまだ確立できていない。「その段階で参入したところで、すぐに広告が集まるとは限らない。うまく商品を販促できないケースもあり得る。成功事例よりも、こうした失敗事例のほうが目立ってしまい、デジタルサイネージ自体の効果が疑問視される事態も起こりかねない」と関係者はみる。
黎明期から普及期に突入した感のあるデジタルサイネージではあるが、これはまだインフラ面の話である。インパクトがあり、表示内容がイヤでも記憶に残るようなデジタルサイネージはまだ少ない。今後は表現の面でも力を入れたデジタルサイネージの登場を期待したい。